最初に決めるのは支援の目的と責任者
介護離職防止に着手するときは、セミナーやサービスの購入から考える前に、従業員が困ったときに誰へ相談でき、誰が働き方を調整するのかを決めましょう。本記事では、人事部門が初めて取組を組み立てるための進め方を提案します。
目的は「相談件数を減らす」ではなく、本人が必要な情報と選択肢を得て、働き続ける方法を検討できることです。退職を選ぶ人を責めたり、勤務継続を強制したりする施策にしないことも、目的の一部として共有します。
経営側には予算と部門間調整を担う責任者、人事側には制度と受付を管理する担当者を置きます。少人数の会社なら兼任でも構いません。ただし、担当者自身が休んだ場合の代理と、判断に迷った際の相談先を決めておくと運用が止まりにくくなります。役割分担は文書に残し、関係者が参照できるようにします。
法令への対応と自社独自の支援を分ける
最初の点検表は「法令への対応」と「自社として追加する支援」を分けて作ります。2025年4月から介護離職防止に関する雇用環境整備、申出時の個別周知・意向確認、早期の情報提供が事業主の義務になっています。雇用環境整備は、研修、相談体制、利用事例の収集・提供、利用促進方針の周知のいずれかを実施する仕組みで、四つすべてが一律に義務という意味ではありません。実施方法や対象時期は厚生労働省の最新解説で確認してください。
ここでいう導入手順や点検頻度は、本記事の運用提案であり、法定の実施期限を示すものではありません。すでに必要な対応が不足していれば、年間計画の完成を待たずに是正します。
就業規則、社内ポータル、申請書、給与処理の説明を横に並べ、同じ制度を違う言葉で案内していないか調べます。規程だけ更新され、古い申請書が残っている状態も点検対象です。担当者の記憶ではなく、従業員が実際に見る資料を基準にします。
従業員の困りごとを小さく把握する
実態把握では、家族の病名を大量に集める必要はありません。「制度の相談先を知っているか」「勤務調整で困る場面があるか」「どの情報が欲しいか」といった、施策につながる問いから始めます。回答しない選択肢も設けましょう。
匿名アンケートは全体の傾向を知るため、個別相談は具体的な調整をするため、と目的を分けます。調査の最後に別の相談導線を置けば、回答データと相談者の氏名をひも付けずに支援へつなげられます。小さな部署の結果はそのまま公表せず、人数や自由記述から個人が推測されないか確認します。
結果を見たら、施策を一度に増やさず課題を一つ選びます。例えば相談先の認知が低ければ窓口案内を改善し、案内は届いているのに勤務調整で止まるなら管理職対応を優先します。これは状況を説明する仮想例です。
受付から勤務調整までの流れを一枚にする
相談の流れは「受付→人事による制度案内→必要に応じた外部専門職への案内→上司との業務調整→次回確認」として、一枚の図や表にします。各段階に担当者と連絡方法を記載し、回答が必要な相談を放置しないための管理方法も用意します。
例えば、本人が勤務時間の変更を希望した場合、窓口が受けたままにせず、調整を検討する担当者、返答予定日、返答できない場合の連絡先まで決めます。外部サービスを利用しても、会社の働き方を決める責任まで移るわけではありません。
共有する情報は目的に必要な範囲に絞ります。職場には勤務予定と業務の引継ぎが必要でも、家族の詳しい治療経過まで必要とは限りません。共有相手・目的・内容を従業員に説明して意向を確認し、必要な同意などの手続を行います。説明だけであらゆる共有が認められるわけではありません。家族の病歴などを扱う場合は、その家族自身の個人情報として取得・提供の条件を確認し、記録の閲覧権限も限定します。窓口の説明と実際の共有が一致していることが大切です。
最初の四週間を使うなら、この順番で確認する
以下は着手のための四週間の例であり、法令上の猶予期間ではありません。一週目は規程と案内の食い違いを点検し、二週目は相談受付と社内の連携先を決定します。三週目には管理職向けの短い説明を行い、四週目に全従業員へ相談先と制度の入口を案内します。
各週の成果物は一つに絞ると進めやすくなります。一週目は修正一覧、二週目は受付フロー、三週目は相談時の対応カード、四週目は周知文です。大規模な制作物を完成させることより、従業員が今日困ったときに使える状態を先に作ります。
その後にアンケートや研修を拡充します。すでに相談が来ている会社では、個別対応を止めずに体制整備を並行します。整備期間中の暫定担当者も明示し、正式窓口の開設まで待つように求めない運用にしましょう。
| 一週目|規程と案内 | 成果物:食い違いの修正一覧。法令上必要な対応の不足は先に是正する。 |
|---|---|
| 二週目|受付と連携 | 成果物:担当者・代理・連絡方法を記載した受付フロー。 |
| 三週目|管理職対応 | 成果物:確認することと人事への引継ぎをまとめた対応カード。 |
| 四週目|従業員への案内 | 成果物:相談先・申請先・情報の扱いを示した周知文。法定の個別対応は別に管理する。 |
実施した数と、支援が届いたかを別々に見る
取組の確認では、研修を実施した回数だけで完了としないようにします。案内を見つけられるか、相談への返答が滞っていないか、調整後に本人が再相談できるかを確かめます。相談が増えた場合も、困る人が増えたのか、相談しやすくなったのかを分けて検討します。
運用会議には個別の家族事情を持ち込まず、案内の不足や担当間の停滞など、改善可能な課題を整理して持ち込みます。「本人に再確認中」と「担当者が決まらず未対応」は同じ未完了として扱わないことが重要です。
最初の一歩として、現在の従業員向け案内を開き、相談先、申請先、担当者不在時の連絡先を探してみてください。見つからない項目があれば、そこが優先して直す場所です。全体の制度設計とともに、日々の入口を整えることで支援を実行に移せます。
出典・参考資料
- 厚生労働省|介護関係の法改正のポイント ↗確認日:2026年10月9日
- 厚生労働省|仕事と介護の両立支援・具体的ツール ↗確認日:2026年10月9日
- 個人情報保護委員会|個人情報保護法ガイドライン(通則編) ↗確認日:2026年10月9日

