KPIは、施策を改善するために決める

仕事と介護の両立支援のKPIを設けるときは、測りやすい数字だけを並べる前に、何を改善したいかを決めます。相談先が伝わっていないのか、相談後の対応が遅いのか、勤務調整の選択肢が不足しているのかによって、必要な指標は違います。

厚生労働省の実務的な支援ツールでは、就業やキャリアの継続を支援の目的として示しています。ただし、特定のKPIや達成率が全企業に共通して義務付けられているという意味ではありません。本記事の指標は、自社の運用を見直すための編集部の提案です。

測定のために個人情報を増やし過ぎないことも重要です。データがあれば分析できるという理由だけで、家族の病状や生活の詳細を集める必要はありません。意思決定に使う指標、集計方法、閲覧者、見直し時期を一緒に決めましょう。

認知・利用・対応・継続の四段階で整理する

認知の指標には、任意アンケートで相談先を知っていると答えた割合が考えられます。利用の指標には、相談した人数や研修への参加状況があります。対応の指標には、受領連絡までの日数や、次の対応者が決まっていない案件数などを使えます。

継続については、本人の任意の回答による働き方の見通しや、合意した勤務調整の見直し状況を確認する方法があります。ただし満足度や見通しだけで、実際に離職が防げたと断定することはできません。それぞれの指標が示す範囲を明記します。

最初は各段階から一つ程度を選ぶと運用しやすくなります。すべてを毎月集める必要はありません。アンケートは四半期や半年単位、対応状況は月次など、データの性質に応じた頻度を検討します。この頻度は例であり、自社の件数と管理負担に合わせて決めます。

指標には、分母と数え方を付ける

指標名だけでは部署や担当者によって計算が変わります。例えば相談件数は、一回の連絡を一件とするのか、一人の継続相談を一件とするのかを決めます。人数と延べ回数の両方を扱う場合は、名称を分けて表示しましょう。

認知率なら「相談先を知っていると回答した人数÷その設問の有効回答者数」のように定義します。未回答を分母へ含めるか、対象者をどこまでにするかも記録します。任意調査の回答者だけの割合を、全従業員の割合と説明しないことが重要です。

管理表には、指標、目的、定義、対象期間、データ元、担当者、注意点を設けます。年度途中で定義を変えたときは、その月以降の数字が単純比較できないことを残します。見やすいグラフを作る前に、集計する人が同じ条件で再計算できる状態にしましょう。

相談先の認知率 知っていると答えた人数÷当該設問の有効回答者数。全従業員の認知率とは区別。
相談した実人数 対象期間の相談者を重複を除いて数える。延べ連絡回数は別項目。
受領連絡までの時間 受付から最初の受領連絡まで。営業時間内か暦時間かを統一。
次の担当者が未決定の件数 集計日時点の未決定案件数。本人の回答待ちなどとは区分。
勤務調整の見直し状況 見直し予定の対象と実施状況。離職防止の確定効果とは扱わない。

相談件数の増減を、良い悪いだけで判断しない

窓口を周知した後に相談件数が増えた場合、困りごとが増えた可能性に加え、存在を知った人が相談できるようになった可能性があります。逆に件数が減っても、解決が進んだのか、窓口が使いにくいのかは件数だけでは分かりません。

例えば相談件数と相談先の認知、返答の待ち時間を併せて見ると、次に調べることを絞れます。認知が低ければ案内方法、認知は高いのに利用しにくいという回答があれば受付手段を確認するという流れです。これは分析の考え方の例で、実際の調査結果を示すものではありません。

相談を減らすことや休業利用を減らすことを一律の目標にすると、必要な支援につなぐ行動と矛盾する場合があります。担当者の評価は、本人に選択肢を案内し、必要な対応を進めたかなど、支援の目的と一致する形で設計してください。

離職との関係は、断定を急がず見る

介護を理由とする退職が減ったとしても、その変化が特定の研修や相談サービスだけによるとは限りません。従業員数や年齢構成、退職理由の記録方法、他の施策なども変わるためです。件数が少ない会社では、一件の増減で割合が大きく動くこともあります。

経営報告では「施策導入後の推移」と「施策による効果」を区別します。比較できる条件がそろっていない段階で、離職を何人防いだと算出したり、それを確定した金額へ換算したりしないようにします。推計を使うなら、前提、計算方法、不確実性を示す必要があります。

個別支援では、本人がどの選択肢を検討できたかを確認する方が役立つこともあります。ただし退職を選んだ人を失敗例として扱うことは避けます。本人の事情と意思を尊重しつつ、会社として提供できた支援と不足していた支援を分けて振り返ります。

経営報告は、数字と次の行動をセットにする

経営報告の一枚には、指標の結果、解釈上の注意、見つかった課題、次の対応、担当者、確認予定をまとめます。「研修を開催した」で終えず、「相談先の案内を見つけにくい回答があり、社内ポータルの入口を修正する」と具体的な行動につなげます。

個別の相談内容はそのまま載せず、改善課題として一般化します。少人数の部署別結果や自由記述は、本人が推測されないかを確認し、必要に応じて統合または非表示にします。閲覧者の多い経営資料ほど、個人の事情を持ち込まない配慮が必要です。

初回の測定は現状を知る基準として使い、根拠のない高い目標を置かないようにします。次の確認時に、前回決めた改善が実施されたかを先に点検してください。KPIを増やし続けるより、結果をもとに一つずつ使いやすい支援へ直していく運用が実務的です。

出典・参考資料