調査後に決めたい施策から質問を作る
介護実態アンケートは、従業員の家族事情を網羅するための調査ではありません。例えば相談窓口の案内を改善するのか、管理職への説明を増やすのか、研修テーマを選ぶのか、結果を使って決めたいことを先に置きます。目的に使わない質問は外すという基準を持ちましょう。
厚生労働省の両立支援ツールには実態把握調査票が用意されています。ひな形の存在を参考にしつつ、自社での配布方法や回答の扱いに合わせて設計することが必要です。本記事の質問例と集計ルールは、編集部が提案する運用例であり、法定の調査様式ではありません。
調査票を作る前に「誰が回答を見て、いつ、何を決めるか」を一文にします。例えば「人事担当者が全体の傾向を確認し、次の四半期に行う情報提供のテーマを決める」という形です。この一文に結び付かない情報を集め過ぎないようにします。
使える質問例は、現状・認知・困りごとの三つ
現状の問いは「現在、ご家族の介護や生活上の支援と仕事の両立について困りごとがありますか」とし、「ある・今後に不安がある・特にない・答えたくない」を選べるようにします。回答者に介護の定義を判断させる負担を減らすため、支援の例を短く添えてもよいでしょう。
認知の問いは「社内で仕事と介護について相談できる連絡先を知っていますか」。困りごとの問いは「欲しい情報を選んでください」とし、社内制度、相談先、家族との話し合い、勤務調整、その他、特になしなどを用意します。複数回答か一つだけ選ぶのかも明示します。
自由記述は任意とし、個人名、病名、住所などの詳しい情報を書かないよう案内します。「支援について改善してほしいことがあれば、個人を特定できる内容を避けて記入してください」という形です。回答に個別対応が必要なら、別の相談先を案内します。
| 困りごと|単一回答の例 | 現在、ご家族の支援と仕事の両立で困りごとはありますか:ある/今後に不安/特にない/答えたくない。 |
|---|---|
| 相談先の認知|単一回答の例 | 社内の相談先を知っていますか:知っている/知らない/答えたくない。 |
| 欲しい情報|複数回答の例 | 社内制度/相談先/家族との話し合い/勤務調整/その他/特になし/答えたくない。「特になし」等は他項目と同時選択しない設定にする。 |
| 自由記述|任意 | 改善してほしい点のみ。氏名・病名・住所等は記入しない。個別支援は別の相談先へ。 |
匿名と説明する前に、取得する情報を調べる
氏名欄がなくても、社員番号、ログイン情報、メールアドレス、回答時刻、部署、役職などから個人が推測される場合があります。アンケートサービスの設定と管理者が見られる情報を確認し、実態に合わない「完全匿名」という表現は使わないようにします。
部署別比較をする必要がなければ部署を尋ねない、年齢は施策に必要な範囲の区分にするなど、設問自体を見直します。小さな会社では全社集計でも個人が分かる可能性があるため、自由記述をそのまま配布せず、趣旨をまとめ直す方法を検討します。
集計の最小人数を決めることは一つの方法ですが、人数だけで安全が決まるわけではありません。珍しい役職や一人しかいない勤務形態との組合せも確認します。回答情報をどこまで取得しているか説明できない場合は、利用する仕組みを確認してから配布してください。
従業員や家族を識別できる回答に病歴などが含まれる場合は、要配慮個人情報の取扱いも検討が必要です。その取得は法令に基づく場合などを除き、原則として情報の本人の事前同意を要します。従業員が任意で回答したことだけで、家族の情報に必要な同意まで得たと判断しないでください。一般的な実態調査では病歴を尋ねず、自由記述にも書かないよう案内し、入り込んだ場合の閲覧制限や削除等の対応を情報管理担当者と決めます。
依頼文で任意性と利用目的を伝える
依頼文の例は「仕事と介護の両立支援を改善するため、社内の情報提供についてアンケートを実施します。回答は任意です。回答しないことによる不利益はありません。結果は人事担当者が集計し、個人を特定しない形で施策の検討に利用します」です。この文例は、実際にその運用を実施することを前提に使います。
続けて、回答期限、保管期間、閲覧できる担当者、問い合わせ先を記載します。説明した保管期間を過ぎたデータを残し続けないよう、削除作業の担当者も決めておきましょう。集計結果の保管と元の回答データの保管は、分けて考えられます。
回答率を上げるためでも、上司が未回答者を個別に追及するやり方は避けます。リマインドは全体向けに行い、協力への感謝と目的を再掲します。管理職へは回答内容を探らないことと、部下から質問された場合の案内先を伝えておきます。
結果は分母を示し、未回答者を推測しない
結果を示すときは、回答者数と配布対象者数、設問ごとの有効回答数を区別します。「相談先を知らない人が半数」と書くより、「この設問に回答した人のうち半数」と範囲を明らかにします。任意調査の結果をそのまま全従業員の状態とみなさないことが重要です。
例えば情報不足の回答が多かった場合は、最初に窓口案内の置き場所を改善し、その後に認知を再確認するという流れが考えられます。これは調査結果の活用例であり、実際の調査値ではありません。改善策、担当者、実施予定を一緒に公表すれば、回答が何に役立ったか分かります。
部署間の順位表は慎重に扱います。人数、業務、回答率が違う部署を単純比較すると、問題のある職場という誤解を生むおそれがあります。初回は全社傾向を中心にし、追加分析が施策に必要かを検討してから進めましょう。
個別の助けが必要な人には別の入口を用意する
匿名調査の回答欄で助けを求められても、本人へ連絡できないことがあります。そのため、回答画面の最後には、アンケートとは独立した相談先を掲載します。「具体的な勤務調整を希望する方は、こちらの窓口へ直接ご連絡ください」と目的を分けて伝えます。
別フォームを用意する場合も、回答識別子を自動的に渡して調査結果とひも付けない設定を確認します。相談を受けたら、その情報は調査の分析用データではなく、個別支援の記録として扱うことを説明します。
配布前の試行では、回答者の画面と管理者の画面の両方を確認してください。所要時間、分かりにくい表現、答えたくない問いへの逃げ道、相談先への移動を試します。調査を行うこと自体を成果にせず、必要な改善と必要な人への支援につながる設計にしましょう。
出典・参考資料
- 厚生労働省|仕事と介護の両立支援・具体的ツール ↗確認日:2026年10月9日
- 個人情報保護委員会|個人情報保護法ガイドライン(通則編) ↗確認日:2026年10月9日




