認知症の診断名だけで働き方を決めない

認知症の家族を支える社員への対応では、診断名から勤務能力や必要な休みを決めつけず、実際に仕事で困っている場面を確認します。本人が希望する情報共有の範囲も、最初に話し合っておきましょう。

家族の状態、生活環境、利用できる支援はそれぞれ異なります。「認知症なら常に付き添いが必要」「家族がいるなら仕事は変えなくてよい」といった一律の説明は適切ではありません。人事の役割は、診断や治療方針を判断することではなく、働くうえで必要な調整を一緒に考えることです。

以下は職場運用の提案です。本人が家族の状態を説明したくない場合も、勤務上の困りごとから相談を始められるようにします。医療や介護に関する具体的な判断は、適切な専門機関への相談につなぎます。

予測できる予定と突然の連絡を分ける

通院の付き添いなど日程が決まっている用事と、その日になって発生する連絡は分けて確認します。すべてを「介護で忙しい」とまとめるより、会議や勤務への影響が見えやすくなります。

たとえば、月に一度の予定は事前に業務を配分し、突発の電話は離席先と代理担当を決める、といった対応が考えられます。社員が何度も家族の状況を説明せずに済むよう、上司と人事の窓口を整理します。

質問例:「決まった予定で調整したい日はありますか」「急な電話が入ったとき、どの仕事が止まりやすいですか」「今の連絡方法で困ることはありますか」。本人の家族への対応を評価する質問ではなく、職場で変えられる点を見つける質問にします。

認知症の相談先を選べるように案内する

厚生労働省は、認知症に関する相談先として地域包括支援センター、かかりつけ医、認知症疾患医療センターなどを案内しています。会社は特定の診断を勧めるのではなく、公的な相談先の情報を渡せます。

高齢の家族の生活について相談したい場合は、家族の居住地の地域包括支援センターを探す方法を案内します。若い家族のことで悩んでいる場合には、同省のページに若年性認知症の相談先も掲載されています。受付条件や時間は紹介時に公式情報を確かめてください。

「この症状なら認知症です」「このサービスを使えば解決します」と人事が断定しないことが大切です。本人が相談先を選び、必要な支援につながるための情報提供と、会社の勤務調整を並行して進めましょう。

職場への共有は本人と文面を確認する

同僚への説明は、勤務や業務に必要な内容に絞ります。家族の診断名を公表しないと配慮できない、という運用にはしません。本人が病名を伝えたい場合も、誰にどこまで共有するかを一緒に確認します。

案内文例:「家庭の事情で、当面は夕方の定例会を別の担当者が進行します。案件の問い合わせは共有窓口へお願いします」。必要な業務の変更は伝えながら、家族の個別情報を広めずに運用できます。

相談記録とチームの業務表を分けることも有効です。全員が見るシフト表や引継ぎ表に診断名を書かず、閲覧が必要な担当者に限定した記録で管理します。保管期限や閲覧権限は会社の規程と運用に沿って決めてください。

診断名や病歴を会社が取得する場合は、家族本人の情報である点にも注意します。社員が説明したことだけで自由に保存・共有できると扱わず、取得目的、本人同意の要否、必要な範囲を情報管理担当者が確認します。勤務調整だけで足りる場面では、診断の詳細を記録しない方法も検討してください。

チームへ伝える情報 不在時間、代理担当、連絡先、変更する業務。
本人と確認する情報 家族の事情について説明してよい内容と相手。
広く載せない情報 診断名、家族の連絡先、詳細な相談記録。

見通しが変わることを前提に勤務案を作る

状況が変わったときに本人が言い出せるよう、見直し日を設定します。「一度決めたのだから変更できない」と扱うと、実際には難しい勤務を続けてしまうおそれがあります。

勤務案には、通常時の担当業務、離席時の代替者、変更が必要な場合の連絡方法を記載します。利用できる制度は要件を確認して説明し、家族の診断名だけで対象可否を即答しないようにします。会社独自の調整は、その条件と試行期間を明確にします。

また、本人が希望していない担当外しや昇進機会の取り下げを、配慮として先回りしないことも重要です。「今の役割を続けたいか」「一時的に変えたい部分はどこか」を聞き、仕事の希望を話し合う機会を残します。

社員自身の負担を確認し次の支援につなぐ

面談では出勤の可否だけでなく、休息を取れているか、家族との連絡が仕事後も続いていないかを話せる範囲で聞きます。人事が心身の状態を診断するのではなく、相談を希望する場合は産業保健や社内外の相談窓口を紹介します。

同僚への負担にも目を向け、業務量や優先順位を調整します。支援を受ける社員の感謝だけに頼らず、代替者の時間や権限を確保することが、継続できる体制につながります。相談した社員を原因扱いする表現は避けましょう。

まず上司向けの面談メモに「診断名で推測しない」「共有範囲を確認する」「勤務案を見直す日を決める」の三点を加えてください。家族の事情を尊重しながら、職場が担当する支援を具体化できます。

本人が前回と異なる希望を伝えたときも、説明の矛盾と決めつけないようにします。家庭で利用できる支援や家族間の分担が変われば、必要な勤務調整も変わります。面談記録には過去の希望を残したうえで、今回変わった点と次の対応を書き足します。以前の事情を毎回最初から話さなくて済む記録は、本人にも担当者にも役立ちます。

本人が相談を望まない時期には、無理に面談を増やさず、必要になった際の連絡先を渡しておきます。相談の利用を促すことと、家族の情報を聞き出すことは分けて考えましょう。

出典・参考資料